【DX】みんなの困りごとの話⑫ ~ 製造業の価格交渉には原価の見える化が効果的 ~
DATE26.10.19
皆様、こんにちは。資格の学校TACで、DX経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(実践編)を担当している、中小企業診断士・ITコーディネータの木佐谷康です。
みんなの困りごとシリーズ第12回は、日本の産業基盤を支える製造業の現場にスポットを当てます。製造業の経営者から寄せられる相談は、見積の精度向上や設計の効率化、技術伝承など多岐にわたりますが、特に多くの企業が頭を悩ませているのが原価の見える化、稼働状況の見える化です。今回は、この2つのテーマについて課題と解決策を考えます。
どんぶり勘定からの脱却:生産管理システムで利益を最大化する
近年、原材料価格の高騰が多くの製造業の経営を圧迫しています。厳しい環境下で利益を確保するためには、製品や案件ごとにいくらコストがかかっているのかを正確に把握する原価管理が極めて重要です。また、原材料費の高騰を販売価格に転嫁させる動きが広がっているものの、下請け型の取引環境ではなかなか価格交渉に応じてもらえないという話もお聞きします。
一方、製造業の現場を見てみると、厳密な原価管理が行われず、どんぶり勘定になっているケースが少なくありません。材料費は計算できていても、製造にかかった設備の稼働時間や作業員の作業時間は手書きの日報に頼っており、正確な計算がタイムリーにできないことが原因です。
その結果、過去の類似案件を参考に経験と勘で見積を作成し、いざ製造してみると想定以上の手間がかかり、実は赤字だったという赤字受注が発生してしまいます。逆に、リスクを見込みすぎて高額な見積を提示して失注してしまう機会損失も生まれます。
原価の見える化を実現するツールの一つが、生産管理システムです。受注から生産、出荷までの一連の製造プロセス情報を一元管理することで、設備や作業員の稼働時間を集計して原価を管理し、利益を最大化できます。標準原価や見積原価と実績原価の差異を明確に分析できるようになるため、適切な価格設定や工程の改善が可能になります。
また、蓄積された原価データを図面管理システムなどと連携させ、過去の製造実績と顧客から提示された図面を比較しながら見積を作成することで、見積の作成時間短縮と精度向上を同時に実現できます。
原価管理を行う際の注意点としては、現場の作業員の入力の手間を少なくするために、バーコードやQRコードなどを活用することです。製造現場では、キーボードを操作するのが難しいケースが多く、1人1台のパソコンが支給されている企業も多くありません。入力に手間がかかると、後からバッチで処理することになり、入力漏れやミスが発生する可能性が高まります。できるだけリアルタイムで入力してもらうための工夫が成功のカギです。
現場のブラックボックスを解消:進捗をリアルタイムに把握
製造現場におけるもう一つの大きな悩みは、生産工程の進捗や稼働状況が不透明である点です。顧客から納期の問い合わせを受けた際、営業担当者がわざわざ工場まで行って現場に確認しなければ状況が分からないという企業は多いのではないでしょうか。
現場の進捗が不透明だと、特定の工程で遅延が発生していても気づけず、納期直前に慌てて残業や休日出勤でカバーする羽目になります。従業員の負担を増大させるだけでなく、納期遅延による信用失墜のリスクを孕んでいます。
この課題に対して有効なのが、生産管理システムによる作業指示や進捗の見える化です。進捗管理をスムーズに行うためには、製造指示書にバーコードを印字しておき、作業の開始と終了時に読み取るだけで、進捗状況がリアルタイムにシステムに記録されます。
記入漏れや入力ミスを防ぎ、事務所にいながら工場の稼働状況が手に取るように分かるようになります。進捗が見えれば、遅れが生じそうな工程にいち早く人員を回すなど先手のアクションが可能となり、生産工程の標準化や効率化、確実な納期管理が実現します。
ここでも、事前のトライアルでの確認や、バーコード、QRコードなど現場に負担をかけない入力作業の工夫が必要です。将来的には設備にセンサーを取り付けるIoTツールを活用し、自動で設備の稼働状況を収集する仕組みにステップアップしていくことで、現場の入力負荷をさらに減らした見える化が実現できます。
DX経営アドバイザー講座講師
木佐谷 康