ごえんをつなぐコラム

四格を育む④

金融機関の決算を読み解く~日銀の金融システムレポートから

DATE18.09.07

2018年7月20日、日本銀行金融機構局より「2017年度の銀行・信用金庫決算」について金融システムレポート別冊シリーズにて公表された。
レポートの分析対象としている金融機関は「大手行」「地域銀行」「信用金庫」で、大手行は、みずほ、三菱東京UFJ(現三菱UFJ)、三井住友、りそな、埼玉りそな、三菱UFJ信託、みずほ信託、三井住友信託、新生、あおぞらの10行地域銀行は地方銀行64行と第二地方銀行41行の計105行信用金庫は、日本銀行の取引先信用金庫253庫

今回公表された「2017年度の銀行・信用金庫決算」の特徴は次の3点である。

  1. 当期純利益
    当期純利益は大手行では増益となり、地域銀行と信用金庫では減益幅が縮小した。いずれの業態でも、国内貸出利鞘の縮小や、米国債の売却損益の悪化等が利益を押し下げた一方、低水準の信用コストが下支えするもとで、株式売却益の増加等が利益を押し上げた。
  2. 業務純益
    基礎的収益力を示すコア業務純益は、地域銀行ではほぼ前年並みとなったものの、大手行と信用金庫では引き続き減益となった。いずれの業態でも、国内貸出利鞘の縮小に伴い資金利益が減少した。資金利益への依存度が高い地域銀行や信用金庫では、金融機関間の基礎的収益力のばらつきが拡大してきている。
  3. 金融機関の財務の健全性
    金融機関の財務の健全性は全体として維持されている。自己資本は、内部留保の蓄積から、大手行を中心に引き続き増加した。

以上、レポートより

解説:(以下は筆者による分析と私見によるものです)
もう少し詳しく見てみると、まず銀行決算では大手行、地域銀行とも2001年度以降資金利益が総じて減少傾向にあることから現状の金利環境が継続する限り、急激な改善は難しいものと見られる。貸出利鞘(国内業務部門)も2005年以降縮小傾向にある。貸出利率別の貸出残高推移(2014年3月末から2018年3月末)では、大手行、地域銀行とも低金利ゾーンでの貸出の増加が顕著である。保有有価証券では、国内債のデュレーションが大手行が3年程度に対して、地域銀行は4年超の水準で推移し、余剰資金の運用の難しさが見られる。非資金利益においては、大手行も地域銀行も回復基調ではあるものの2005年度のピークの水準には至っていない。大手行においては、国際業務部門の寄与が注目されるが、2006年以降概して増加傾向であったものの2016年で一旦ピークアウトした感もある。

一方、経費の方に目を向けると大手行、地域銀行とも幾分減少はしているものの、経費率については業務粗利益の減少が主因となって、上昇傾向が続いている。有価証券関係損益では、いずれの業態でも米国長期金利の上昇を受けて米国債の売却損益の悪化が続いた。株式関係損益は両業態とも株価上昇を背景に政策投資株式の売却やETFの益出しが進んだ。有価証券評価損益は大手行、地域銀行とも2015年3月までは株式の評価益増加が大きく、以降2016年9月は一旦縮小したものの、2018年3月までは堅調に推移している。不良債権比率は、大手行、地域銀行とも時系列で確認できる2001年以降の最低水準を更新し続けている。

次に、信用金庫決算であるが、資金利益は、貸出利鞘縮小の影響が貸出残高の増加効果を上回るもとで減少が継続。貸出利鞘についても貸出利回り低下から引き続き縮小している。貸出利率別の貸出残高も銀行同様、低金利ゾーンでの増加が続いている。有価証券利鞘は横ばい推移となっているものの、国内債のデュレーションは6年程度となっている。非金利利益は投信や保険の販売が低調であったことで減少したが、経費も人件費を中心に減少している。有価証券関係損益は、株式は2013年度以降、債券は2010年度以降の売却益超となっているが、債券が減少気味に推移している。有価証券評価損益では、2010年3月以降2016年3月までは益超幅は上昇基調であったが、その後はピークアウトし減少トレンドにある。不良債権比率については、銀行同様最低水準を更新し続けている。

以上、業態別に概観してきたが、財務の健全性は全体として維持されているとはいうものの、株式売却益の増加等が利益を押し上げている点では、株式や債券市場の動向次第では今後厳しい決算も余儀なくされる可能性が大きい。大手行、地域銀行、信用金庫の順に保有債券のデュレーションが長期化している点も気にかかる点である。大手行においては、国際業務部門での収益確保の選択肢があるものの、地域銀行や信用金庫ではそこに収益の源泉を見出せるところが限られる点では、後者の業態ではビジネスモデルのあり方を再考せざるを得ない状況にある。そのような意味では、地域金融機関のコンサルタント機能を強化した地元顧客への営業の成果が期待されるところである。

一般社団法人日本金融人材育成協会理事
飯田 勝之

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