ごえんをつなぐコラム

緊急事態に対応するためにしておかなければいけないことは?
~経営理念で優先順位を明らかにする

DATE20.05.01

皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。
今回は経営理念の重要性について、緊急事態が生じた場合を例にあげて考えてみたいと思います。

 

■良い経営理念の条件

経営理念とは、企業の存在価値や提供価値を表明したものです。良い経営理念の条件は、「その企業のステークホルダー(利害関係者)の行動の変化を促せること」です。

経営理念を聞いた社員がそれに心底納得すれば、「これは望ましい行動だからやろう」「これは相応しくないからやめよう」と判断して行動するようになります。その結果、企業としての長期的な成果につながるのです。

ステークホルダーには、従業員、株主、顧客、仕入先、広く社会全般などがありますが、すべてに良い顔をすることはできません。よって、「誰を優先するのか」明確にする必要があります。

 

■ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド

有名なジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド(我が信条)を例にしてみます。

※同社ホームページからの抜粋

<我が信条>

我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護婦、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人ひとりのニーズに応えるにあたり・・・

我々の第二の責任は世界中で共に働く全社員に対するものである。社員一人ひとりが個人として尊重され・・・

我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。世界中のより多くの場所で、ヘルスケアを身近で充実したものにし、・・・

我々の第四の、そして最後の責任は会社の株主に対するものである。

事業は健全な利益を生まなければならない。・・・

同社のクレドを読むと、顧客、社員、社会、株主の4つのステークホルダー別に段落を分けて、各段落でステークホルダーに対して同社が負っている責任、やるべき事が書かれています。さらに「顧客⇒社員⇒社会⇒株主」の順で明確に優先順位をつけていることが特徴的です。同社ではこのクレドがトップから社員に至るまで浸透しているといわれています。

1982年、同社の主力商品の1つである解熱鎮痛薬であるタイレノール(当時、全米でトップシェア)を服用した一般消費者7人が、何者かによって混入されたシアン化合物(青酸カリ)で死亡した事件が起きました。全米の消費者がパニックに陥る中、同社は即時に生産を中止し、巨額の費用をかけて小売店から全品を回収するという対応をとりました。トップが回収を決める前に自分の判断で担当顧客の薬局に飛び込んで販売中止を働きかけ、商品回収を始めた営業担当者もいたそうです。

 

■優先順位をつければ混乱しない

4月7日の新型コロナウィルスに伴う緊急事態宣言が発令され、多くの企業が臨時休業に追い込まれました。しかしながら休業実施の判断が早かった企業とそうではない企業が見られます。私はこのような差が出るのは企業としての優先順位のつけ方の差だと考えています。

休業したほうが望ましいと思いつつも、「現場が混乱する」「収益がゼロになる」といったことが判断を鈍らせた企業も多いでしょう。しかしながら経営理念で企業としての優先順位がはっきりしていれば右往左往することはなかったはずです。

不測事態は新型コロナウイルスのような社会全体にかかわるものに限らず、常に起こりうるものです。あらかじめ「誰を優先するのか」明確にしておくことで、経営判断を早め、現場での混乱を防ぐことができます。

 

中小企業診断士
三枝 元

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