ごえんをつなぐコラム

【DX】政府のDX方針が変わった話

DATE25.08.19

皆様、こんにちは。資格の学校TACで、DX経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(実践編)を担当している、中小企業診断士・ITコーディネータの木佐谷康です。

今回のテーマは、「政府のDX方針が変わった話」です。

DXレポートで振り返るDXの歴史

日本でDX(Digital Transformation)という言葉が広がったのは、2018年に経済産業省が「DXレポート」を公開した時期が始まりと言われています。ただし、「DXレポート」のサブタイトルである「ITシステム(2025年の崖)の克服とDXの本格的な展開」にも入っている「2025年の崖」という言葉が、DXより注目を集めてしまったのです。

当時は、ドイツ製ERP(統合基幹システム)であるSAPのサポートが2025年に終了すると発表されており(その後スケジュールは変更)、金融機関や大手商社等の大企業が多く導入していたSAPのバージョンアップやリプレースにITエンジニアが集中してしまうことが懸念されていました。

そこで、経済産業省はDXレポートで「2025年の崖」という言葉を使ったのですが、システムインテグレーターやITベンダーがこのキーワードを利用し、2025年までに既存(レガシー)システムのリプレースを済ませないと、ITエンジニアが枯渇して対応できなくなるため、早く始めましょうとセールストークとして頻繁に利用するようになったのです。

経済産業省もこの事態を憂慮したようで、2020年に公開された「DXレポート2 中間とりまとめ」では、「レガシー企業文化からの脱却」を中心に据え、「先般のDXレポートでは(DX=レガシーシステム刷新)など、本質ではない解釈」を生んでしまったと、軌道修正しています。

2021年に公開された「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」は、少し方向性が変化し、「ユーザー企業とベンダー企業の共創の推進」の必要性が強調されています。

これは、日本のITエンジニアの所属先が影響しています。IPA発行の「IT人材白書2017」をみると、米国のITエンジニアの34.6%がIT企業に所属しているのに対して、日本は72.0%がIT企業に所属しており、中小企業がDXを進めるにはIT企業に所属するITエンジニアの支援を受ける必要があるという背景があると考えられます。

「DXレポート」公開から4年後の2022年に公開された「DXレポート2.2」では、DX推進指標の経年推移から判断して、DX推進の取り組みは一定程度進んでいるものの、バリューアップ(サービスの創造・革新)で成果が出ているのは全体の1割未満となっていることが指摘されています。

DXを成功させるための方向性として、効率化・省力化を目指したITによる既存ビジネスの代替の取り組みから、収益に直結する既存ビジネスの付加価値向上や、新規デジタルビジネスの創出(デジタルでしかできないビジネス)といった取り組みにシフトすることが必要だと説明されています。

2024年に経済産業省の方針が変化

経済産業省は、2018年以降に4回にわたってDXレポートを公開し、様々な角度からDX推進が必要であることを強くアピールしてきました。

こうした経済産業省のDX推進の方針が変わったことが、2024年3月に公開された「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」に記載されています。本資料のはじめにには、以下のような反省の弁が述べられています。

「国では、これまでデジタル化を自走して進める企業に対して種々の施策を用意してきましたが、基本的に企業が自ら取り組むことを前提とした施策だったっため、周知が広がらず、活用もあまりされてきませんでした。

今回の(DX支援ガイダンス)は、最初の一歩を踏み出せない地域の中堅・中小企業等に対してデジタル化を支援する機関向けの施策であることが特徴です。」

これまでは個社に対する支援が中心だったが、中小企業だけでDXを推進するのは限界があるため、支援機関と一緒になってDXを進めましょうという方向転換が示されています。支援機関は、地域金融機関や商工会議所等が想定されています。

中小企業のDX推進を支援機関が支援することにより、支援機関としても新たなビジネスモデルとなり、地域全体の活性化につながるという三方よしのシナリオです。実際に、地方銀行を中心にDX支援の専門部隊が組成され、新たなビジネスとして注目され、成功事例も登場しています。

 

DX経営アドバイザー検定試験講座講師
木佐谷 康

 

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