ごえんをつなぐコラム

【年金】年金法改正の概要② 遺族年金の見直し

DATE25.08.26

前回に続いて、年金法改正の概要について解説していきます。

今回は令和10年(2028年)4月から施行予定の「遺族年金の見直し」について取り上げます。

今回の改正は遺族厚生年金と遺族基礎年金で大きな改正があり、その中でも特にインパクトの大きい内容をピッアップして概要を見ていきましょう。

1.改正の趣旨

もともと遺族厚生年金の受給要件には男女格差がありました。遺族厚生年金の対象となる遺族が妻の場合、年齢要件はありませんが、夫には55歳以上(60歳まで支給停止)という年齢要件があり、これが男女間の不平等として長年指摘されていました。

また、子を取り巻く家庭環境の変化を踏まえ、子が置かれている状況によって遺族基礎年金の支給が停止されるという不均衡の解消を図る必要性があるという点も指摘されていました(詳細は後述)。

こういった点を解消するため、今回の法改正が行われました。

2.遺族厚生年金の改正内容

今回の改正では夫、妻ともに、60歳未満で受給できる遺族厚生年金は「原則5年の有期給付」となります。これにより、現行制度にある夫の年齢要件は撤廃されます。

現行制度でも、夫が亡くなったときに30歳未満で遺族基礎年金を受け取ることができない妻に支給される遺族厚生年金は5年間の有期給付とされていますが、改正後は有期給付の対象者が拡大されることになります。

新たな有期給付の対象者は、令和10(2028)年度末時点で40歳未満である配偶者となります。

なお、次の方々は、改正後も現行制度と同様に遺族厚生年金を受給することができます。

・改正法施行時点で40歳以上の女性(令和10(2028)年度中に40歳以上となる女性)

・改正法施行前から遺族厚生年金を受給している人

・18歳未満の子がいる夫、妻、60歳以降の夫、妻

また、有期給付化に伴い、次のような配慮措置が新たに設けられます。

・年収850万円以上の方も受給できるようになる

※有期給付の対象者については生計維持要件(前年の収入が850万円未満あるいは所得が655万5,000円未満等)が緩和

・配慮が必要な方は、最長65歳まで受給できる

・有期給付加算や死亡時年金分割制度が新設

・女性のみの寡婦加算を25年かけて段階的に縮小

もともと再婚などをしない限り終身で受給できた遺族厚生年金が有期給付化されるのは大きな変更に感じられるかもしれませんが、その分死亡時年金分割制度によって配偶者亡き後も老齢厚生年金の受給額を増やせる仕組みが導入されるなど、デメリットばかりではありません。

3.遺族基礎年金の改正内容

遺族基礎年金は、子のある配偶者、または子に支給されます。具体例で見てみましょう。

妻が42歳で死亡、死亡時は夫の扶養に入っており国民年金第3号被保険者でした。妻に厚生年金の被保険者期間はありません。残された遺族は夫45歳(年収1,000万円)、子10歳と8歳、妻亡きあと、夫と子2人で暮らしている場合、夫や子に遺族基礎年金は支給されるでしょうか。

まず、夫は前年年収が850万円超のため、生計維持要件を満たせず、遺族基礎年金を受給することはできません。2人の子が遺族基礎年金の受給権を取得することになりますが、現行制度では、子に生計同一の父母があるときは、遺族基礎年金は支給停止されることになっているため、この家庭には遺族基礎年金が支給されないことになります。

これでは、子どもの生活の安定を図るための遺族基礎年金としての役割が果たせていないという問題点が指摘されていたところでした。

今回の改正により、「子に係る支給停止」の規定が削除されます。今後は、生計同一の父母がいることにより子の遺族基礎年金が支給停止されることはなくなります。

先ほどの例でも、夫は受給できなくても、子2人には遺族基礎年金が支給されることになります。これにより、より多くの子どもが遺族基礎年金を受給できることになります。

今回の遺族年金制度の見直しによる影響は、家族構成や年齢、就労状況によって改正による影響は異なります。

改正の施行は令和10(2028)年4月以降で少し先の話にはなりますが、自分にはどのような影響があるのか、事前にシミュレーションしておくといざというときに安心ですね。

 

社会保険労務士
後藤 朱

 

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