ごえんをつなぐコラム

【企業経営】給料を上げるとモチベーションが低下する?(2)

DATE23.10.05

皆様、こんにちは。資格の学校TACで、企業経営アドバイザー検定試験の対策講座講師(担当:企業経営・生産管理)をしている、中小企業診断士の三枝元です。

前回、金銭的報酬を上げても、モチベーションが上がるとは限らず、かえって内発的動機づけ(自分の内面から沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられること)を損なうことについて、心理学者のエドワード・デシの実験を例に取り上げました。

今回は、その理由についてもう少し詳しく説明したいと思います。あわせて、望ましい報酬の与え方を紹介します。

 

■アンダーマイニング効果

金銭的報酬がモチベーションの低下につながることを、アンダーマイニング効果といいます。その理由は、次の2つです。

○報酬にコントロールされている感覚
もともと、興味があってやっていた(内発的に動機づけられていた)のに、金銭的報酬という外的報酬が与えられると、「お金のためにやらされている」という心理状態にシフトしてしまいます。前回のデシの実験で触れたとおりです。

○自分に対する評価にがっかりする
金銭的報酬は、その人の金銭的な評価という意味を持ちます。そしてそれは多くの場合、自分が思っているよりも低いでしょう。そうなると、「自分の価値はそんなものではない。会社(上司)は、自分の価値を正当に評価していない!」と不満を持つ(モチベーションが低下する)ことになります。

 

■金銭的報酬を与える場合の注意点

確かに金銭的報酬が低いと不満の要因にはなりますから、ある程度の金銭的報酬は確保してあげることが必要ですが、それは内発的動機づけによる積極的なモチベーションにはつながりません。金銭的報酬を与える際には、次の点を意識するとよいでしょう。

・複雑で頭を使う仕事の場合は、金銭報酬を上げてもあまり効果がない。(単純労働の場合は効果あり)
・特にもともと自発的に行動していた場合は、内発的動機づけを損なう可能性がある。
・協働が求められる場合に個人に対し金銭報酬を与えると、自己の利益にしか頭が行かなくなるので好ましくない。

 

金銭的報酬はインパクトがあります。よって、単純労働の刺激剤としては有効ですが、複雑で頭を使う仕事の場合は、先ほどの自身に対する評価という点がからみ、混乱を生じさせてしまう可能性があります。また、個人の評価という面が強調されてしまうので、協働意欲を損なう可能性があります。

 

■効果的な外的報酬とは

一般的に、金銭的報酬等の外部から与えられる報酬は、不満の解消になるものの、満足にはつながらない、場合によっては、自身の内側からのモチベーション(内発的動機づけ)を損なうと言われています。しかしながら、外発的な報酬であっても、言葉での評価(賞賛・感謝)は、内発的動機づけを損なわず、むしろ向上させる効果があります。

 

また、報酬はその都度与えるよりも不定期に与えるほうがよいです。何か良いことをする度に報酬を与えると、「報酬のためにやらされている」「報酬がもらえなければやらない」という心理状態にシフトしてしまうからです。また、部下の行動を常に監視して、良いことをする度に報酬を与えるなど、そもそも不可能なことです。

 

ここまで金銭的報酬の問題点を強調してきましたが、必ずしも金銭的報酬が悪いわけではありません。金銭的報酬と個人の評価が直結しないようにすれば、内発的動機づけを損なうことはありません。たとえば社長賞のように、個人への感謝の印として金銭を与えるといったことです。

部下のモチベーションを維持しつつ、より良いパフォーマンスを発揮させるためには、その時々で動機づけの方法を使い分ける必要があるといえるでしょう。

企業経営アドバイザー検定試験講座講師
三枝 元

給料を上げるとモチベーションが低下する?(1)はこちら

 

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