ごえんをつなぐコラム

【年金】年金法改正の概要③ 老齢年金の繰下げと遺族年金に関する改正

DATE25.09.22

年金法改正の概要について、3回目の記事となります。今回は、老齢年金の繰下げに関する改正について取り上げていきます。こちらは、令和10年4月1日に施行予定のものです。

1.現行制度の繰下げの概要と今回の改正の目的

老齢年金は、原則65歳で受け取る権利(受給権)が発生し、受給を開始できますが、66歳以降、任意の時点で繰下げ請求を行うことも可能です。繰下げ請求をした時点から受給が始まり(実際の支給は請求月の翌月分から)、繰り下げた月数に応じて「0.7%×繰下げた月数」の加算が行われます。

ただし、繰下げ請求を行うことができるのは、障害年金、遺族年金といった他の年金の受給権がない場合に限られます。65歳到達日~66歳到達日までの間に他の年金の受給権が発生した場合には、繰下げ請求はできず、従来どおり65歳から老齢年金を受給することになります。

また、66歳以降に繰下げ待機中であっても、他の年金の受給権が発生した時点でそれ以降繰下げ請求はできなくなります。その場合、他の年金の受給権発生時点で繰下げ請求を行うか、65歳からの本来請求とするかを選択する必要があります。

ここで問題となっていたのが、遺族厚生年金です。65歳以上の方が受け取る遺族厚生年金には「遺族先充て」の仕組みがあり、遺族厚生年金額から自分の老齢厚生年金の額は差し引かれることになっています。これにより、遺族厚生年金を受け取る方の老齢厚生年金の額が高い場合、遺族厚生年金として支給される額は0円になるケースもあります。

具体的な金額でみてみると、夫が亡くなり、妻が遺族厚生年金を請求する場合として、

・遺族厚生年金:100万円
・妻自身の老齢厚生年金:120万円

このような場合、妻に65歳以降支給される遺族厚生年金の額は100万円-120万円=▲20万円(支給される額は0円)となり、このケースだと妻には遺族厚生年金の受給権はあるが、実際には1円も受け取れないことになってしまいます。

これにより、遺族厚生年金を受け取れないにもかかわらず、受給権だけは発生してしまっているので自身の老齢年金の繰下げもできない…ということが生じていました。

2.改正によりどう変わる?

この点について解消するため、令和10年4月1日以降は、遺族厚生年金の受給権がある方の老齢年金の繰下げについて、次のように改正されることになりました。

・老齢厚生年金:遺族厚生年金の請求を行っていない場合に限り、繰下げ請求が可能
・老齢基礎年金:遺族厚生年金の請求の有無にかかわらず、繰下げ請求が可能

令和10年4月1日以降に遺族厚生年金の受給権が発生し、その段階で老齢厚生年金を請求しておらず繰下げ待機中の方は、

・遺族厚生年金を請求するか
・自身の老齢厚生年金の繰下げを優先するために遺族厚生年金を請求しないか

どちらかを選択できるようになります。

改正法の施行日は令和10年4月1日と、まだ先のことです。ですが、現在すでに年金事務所の窓口では、昭和38年4月2日以降に生まれた方が遺族厚生年金を請求する場合、改正内容について案内が行われています。

これは、昭和38年4月2日以降に生まれた方が、令和10年4月1日以降に65歳到達者となるため、改正法の対象となるからです。

この法改正により、遺族厚生年金の手続きを行う際は、請求者自身の老齢厚生年金の見込額や繰下げ予定についても確認しながら手続きを進めなければならないですね。

実際に相談を受けた際には適切なアドバイスが求められますので、しっかり把握しておきたい改正内容です。

 

 

社会保険労務士
後藤 朱

 

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